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2011年11月 3日 (木)

安曇野紀行

私のフルートの故郷に行ってきました。

ああ、こういう中で創られた音色なんだ〜と感激(^^)、

その様子を紀行文風に書いてみました。


by Tanaka@神奈川

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●安曇野という地●

 

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(この写真は安曇野ひつじ屋さんよりいただきましたhttp://www.hitsujiya-azumino.com/)

 今朝は濃霧、 ややグレーがかったベールが全てを包み込んでいる。
時折先の方に二つの円盤を見つけると、みるみる接近し横をすり抜けて行く。農作業に向かう軽トラックのようだ。路肩方向には木々のシルエットが時折姿をあらわしては後方に流れて行く。
 やがて土地の高低に従ってベールがリズミカルに濃淡を繰り返し始めた。すると、次の瞬間、すーっと晴れて来た。周囲は蕎麦畑。白い小さな花が一面を埋め尽くす霞草の束のようにも見える区画と、桃色のコスモス園をも連想させるような赤蕎麦区画が交互に現れパッチワークにようだ。 この霧の世界・・・マーラーの交響曲五番第四楽章をイメージするような風景・・・、これが安曇野。

 長野県の中部、松本市に隣接するこの地区。湧水が多く、至る所に小川が生まれ、幾つか集まって水路となり、御法田付近で犀川を成し、やがて長野付近で千曲川に合流していく。

 
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この豊富な水系を、安曇野の太陽がライトアップしている。作物たちが葉や茎に携えている無数の水滴が宝石のように輝いている。なんとも言えない美しさを感じる。
 安曇野の太陽はその後もぐんぐん輝きを増し、澄みきった大気を通して照り続けると相当に強い日射となる。この日射し、ここを初めて訪れた時---多分25年くらい前だが---体験し「高原は涼しい」というイメージが変化して行った。確か高原ホテル「アルカディア」という処でコーヒー注文したのだがテラス席はホットが飲めないほど暑かった。

 ちょうどスイス旅行の後の事でグリンデル・ヴァルトの気候に似ていると感じた。(姉妹都市だった事があるようだ)日向はとにかく熱く感じるが、日陰はからりと涼しい。兵役中の野戦服の若者たちが日射しを避けて休憩している様子が思い出された。建物は窓が小さく冷房が無い。テラス側の部屋は昼間熱い。

 これだけ強い日射しが降り注いでも極端に熱くなるわけではない。湧水たちが地区全体に張り巡らされた小川や水路により地区の隅々まで行き渡り、程よい大気の状態を保っていて、木陰に入ると心地よい。

 こうして日中、この地区の大気に一杯に拡散していった湧水たちの水蒸気が、夜の冷え込みで、大気中の塵を核として小さな水滴を成し地上に降り立って霧となってあたり一面を覆っていく。

 刈り取られた稲藁の積み上げ方にもその影響が出ているのだろうか・・・・。この地区では、稲藁は直径1メートル以上状あるような円柱状に巻かれ、田んぼのあちこちに置かれている。この「円柱」が縦置きされ、ドラム缶が並んでいるように見える田んぼもあれば、横置きしてまるで巨大なロールキャベツが並んでいるような田んぼもある。

   

  私が幼少を過ごした筑後地方(九州)では、稲藁は直径30センチくらいの丸太状に束ねられ、これを柱として長屋住宅風に積み重ねられていた。この長屋住宅は、柱と柱の間にわずかな隙間があって子供ならなんとかその隙間に入り込むことができた。私はよくここで昼寝したが、友人も入り込んでくると、柱間が広がりすぎて長屋は崩壊した。すると農夫が「こら~」と追いかけてきた。

 宮城に住んでいた頃は仙台市からおとなりの黒川郡の工業団地へ車で通った。4号線は渋滞するから田んぼ中路を抜けて行くのだが、収穫期になると稲が透明感のあるゴールドの葉になって見事だった。刈り取られた稲藁は地面から垂直に立てられた長い竿に挿されていくのたが、その様は、まるで巨大なつくねのようだった。農家の青年が分けてくれるお米は関東では食べた事が無いような美味と歯触りだった。安曇野の米はどうなのだろう・・・・蕎麦の陰に隠れているが。


●サイクリング●

 私たちは、この地区の中程にある道の駅に車を止めて、ここから自転車で散策に出る事にした。拾ヶ堰関という水路に沿って自転車専用のルートが用意されていて、それを穂高駅の方へと流れるように進んで行った。穂高の駅前に民芸そば処「一休庵」を見つけ、おすすめ品「なごり雪」を注文した。信楽焼のような風流な皿に安曇野蕎麦が盛りつけられ、その上に山菜に加えて、細く千切りされた大根と天かすがトッピングされているこの蕎麦。大根が雪の様にも見え、シャキシャキとした歯触りが心地よかった。ああ美味しい〜といいながら周りを見渡すといつのまにか満席になっていた。レンタサイクルの人、山ガール、家族連れ・・・そういう方たちが目指してくる店のようだった。 

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 一休を後にして、更に「流れて」行った。私たちの自転車はColnago(イタリア)のクロスバイク。細いタイヤで走行抵抗が極めて小さい。そのためこの地区では水が流れるように軽く進む事ができた。やがて、湧水が集結する大王わさび農園に到着した。ここはドラマの舞台となっただけあって、美しい水路に、ワサビ畑、三連水車、カヤックを楽しむ人々・・・と賑わっていた。ここの名物は「わさびアイス」というソフトクリーム。このアイス目的で観光バスも沢山押し寄せてくる。周辺の道路は駐車場入り口まで車やバスで埋め尽くされている。「名物」とは凄いものだとつくづく感心した次第だ。


 
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 さて、この場所は地区の東側に位置するのだが、ここら西側を見ると、やや小高いところに色んな施設があるようだ。iPhoneのナビで見ると国営アルプスあずみの公園という名前がみつかった。よしここへ行ってみよう。
 水が集まってくるわけだから現在地は地区で最も低い位置ということになる。目的地は空気が澄みきっているとさほど遠く感じないし、実際クロスバイクでは再び水のように流れるようなスタートが切れた。レンタサイクルの皆さんを何人も追い越しながら、流れて行った。
 上り坂だがそれを感じさせないくらいゆるやかな坂で、走っていて適度な負荷と、吹き抜けて行く風が心地よかった。穂高小学校の裏側を通り抜けると、運動会帰りの子供たちが 文字道理の道草で遊んでいた。しかし目的地に近づくと様子が違ってきた。ギアが一段一段と低くなり対地速度が段々下がってきた。先ほどまで頬をすり抜けて行った風たちもどこかへ消え去った。体感温度は徐々に上昇し全身汗まみれになってきた。特に最後の上りはかなり急になった。山に近づくと傾斜が急になるのはスイスの地形;U字谷の特徴だが、ここも似た地形にあるようだ。前方に駐車場の案内が見えてきた。あともう少し・・・・・。
国営アルプスあずみの公園は広大な自然園を持つ有料の施設だった。私たちの子供たちが小さかったら喜びそうな施設が沢山ある。しかし、これから入場して散策するには時間が短い・・・・・。


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 安曇野コーヒーを飲んだ後、しばらく休憩して ここから林檎農園を目指して、県道25号線を下って行く事にした。このルート、iPhoneのナビゲーション地図で見ると、林檎園にむかって、やや左右にうねりながらも心地よく飛ばして行けそうだ。あずみの公園の駐車場ゲートを出ると先ほど登ってきた最後の坂道が25号線に向かって直線に延び、ここを弾丸のように下ると、突き当たりの向こうには安曇野の谷が開けていた。これを右折し岩原北という信号を過ぎると道路は左にカーブして行った。このカーブを半分過ぎたあたりで、林檎園が前方に開けてきたが、右手に見た事がある建物が・・・・・。


●コンサートホールの様な●    

 この地区には珍しい白い現代的な建物。正面がガラス張りで、小さなコンサートホールのような外観。周囲には緑地や広場があり、広場の中央にケヤキは紅葉している・・・・・。アルタスフルートの本社工場なのだ。これは本当に驚いた。安曇野旅行を決めた時、私の楽器の故郷だとね、と話していた。時間があったらどんなところか行ってみようかとも話していたが場所を書き留めてくるのを忘れた。今日はもう夕方だから林檎園でおわりにしょうか、と、下って行ったのだが、ここで出会うとは!! もっと中心地よりだと思っていた。
 ゲートは解放されているので敷地に入った。土曜日だが車がある。今日も生産しているのだろうか? 玄関付近には人気が無い。

 
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 シータ型のドアノブをそっと押してみるとぐぐっと開いた。そのまま中に入るとロビーにも誰もいない。左の壁に何枚か写真があって、一番右側がデニス・ブリアコフさんの写真。この方はアルタス"PS"の奏者なのだ。銀のフルートは一般に90〜95%の銀で生産される。予め圧延によって板を作りこれを巻いて筒にするシーム管と、引き抜きにより継ぎ目無く作るシームレス管がある。この製法の違いと銀の組成の違いで鳴りの特性が違ってくるのだが、アルタス"PS"はこれらとは異なる粉末冶金という製法を用いている。99.7%の銀の粉末を型に入れ圧力をかけて成形するのだそうだ。

 私は2008年春に山野楽器へフルートを見に行った際にこの"PS"という楽器に出会った。この日は朝の開店時刻からおじゃまし、30年ぶりにフルートを吹きたいと思った、と身上を述べ、そういう初心者におすすめのものを、と順番に出して頂いた。オーソドックスなM社のスタンダードモデルから始まって、S社の元気なモデル・・・・トランペットと張り合えるようにパワフル・・・・や、かつてお世話になったY社の進化版など、私の興味にあわせて様々なものを出してくれた。しかし何かが違う・・・と思っていると(ちゃんと吹けないのに大きな事言って申し訳ない)、これはどうですか? と出して頂いたのが"PS"という楽器だった。吹いてみると、倍音を豊富に含んだ独特の音色で弦楽器と良く溶け合った響きになりそう。しかも吹き方で表情が自由に変えられる(はず)・・・。これは良い伴侶になるに違いない。当時の私のレベルでもわかるくらい特徴のある楽器だった。
 昨年秋から月1回ほど若きフルーティストの先生に習っているが、初レッスンの時、いい楽器ですね? と言われ、2回目には「私もこれにしました」と購入されたばかりのPSを持って来られた。
その先生からデニス・ブリアコフさんのコンサートを紹介され、平日にもかかわらず逗子まで聴きに行った。ドボルザークのチェロ協奏曲のフルート版だったのだが、このPSという楽器の特性をフルに使ってホール一杯にデニス・サウンドが広がり、私たち観客は釘付けになって聴き入った。

それを思い出しながら見入っていると、事務所からスタッフの方が出てきた。
「あの〜、今日は営業してますか?」
「営業?? どちら様ですか??」
「た、田中と言いますが、アルタスさんのヘビ、ヘビーユーザーです(相手にしてもらえないと困るのでそう言ってしまった)」
「少々お待ちください、わかるものを呼んできます」
こうして中を案内頂く事になった。案内役はKさん、デニス・ブリアコフさんのコンサートの話で盛り上がった後、私たちはKさんに導かれるまま階段を登って行った。上の階に着くと目の前にある光景が広がった。

・・・・多分私が見たこの光景、"物作りの場"に対する明確な思想が感じられるこの光景は、彼らの暗黙知やノウハウなどを含んでいるから、ここに書くわけにはいかないだろう。コンピテンスに傷をつけては申し訳ない・・・・・

・・・・
 半年毎にメンテをお願いしているSさんにご挨拶してこのフロアを去る事にした。

 安曇野の地で生産している事も重要なファクターに違いない・・・・そう感じながら、国営アルプスあずみの公園に到着した時の何倍も熱くなった私は、アルタスフルートを後にして、林檎園へと向かった。

●赤い音符●

 林檎たちは夕陽を浴びて一段と赤く染まっていた。一口に林檎と言っても色々な種類があった。群馬や宮城で良く見かけた林檎園は脚立が必要なくらい背が高い木だったが、このあたりでは高さが低く揃えられ、簡単な道具で収穫できそうだ。しかも碁盤の目のように秩序を持って植えられている。
その中に、葉が少なめなのに実が沢山熟している群があった。道路から見える風景は、高さ3mで道路に沿って20〜30m続くフェンス。しかもその中の色々な高さに実が成っていて大きな五線紙に描かれた音符のようにも見えた。
 もし農家の方が作業していたらいくつか譲って頂こうと思っていたのだが、到着時刻が少し遅すぎたようだ。私たちは、車のある道の駅へと戻って行った。

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